元日経記者がネット株取引の初心者に解説する「信用取引の怖さ」とは

元日経記者がネット株取引の初心者に解説する「信用取引の怖さ」とは

元本割れすることなく、ローリスク・ミディアムリターンを狙って着実に利益を出していく“石橋を叩いて渡るネット株投資術”(石橋攻略)。今回は、信用取引について説明します。

信用取引は怖いので現物取引だけに限っている」という人が多いようです。数で言えばその方が多数派です。現物取引だけでも毎年、投資金額の1割程度の利益は十分確保できます。

私は現物取引信用取引の「ベストミックス」を提案しています。両取引を並行してやることです。

現物、信用両取引でいずれも利益を出せるのが理想ですが、時には信用取引の赤字分を現物取引で埋めるケースもあります。後で述べるように、信用取引は証券会社に預託したお金の約3倍の取引ができるので当たれば利益も大きいですが、外れると大幅な赤字を出すことになります。現物取引と比べリスクは大きく跳ね上がります。

「石橋攻略」に初めて取り組む方は、少なくとも1年間は現物取引に限り、相場観を養ってください。リスクを伴う信用取引に挑むのは、その後でも遅くありません。

◆証券会社からお金を借りて取引するのが「信用取引

信用取引現物取引とはいくつかの点で大きな違いがあります。

第1の違いは、現物取引が自分のお金で株式を売買するのに対し、信用取引は証券会社からお金や株式を借りて売買をします。

第2は、現物取引にはない「カラ売り」(信用売り)があります。

「カラ売り」とは、証券会社から株式を借りて市場で売却し、一定期間内に買い戻して返却する取引です。

この方法を利用すると、株価が下がると予想される局面でも差益が得られます。

証券会社からある銘柄を100株借り、その時の株価3000円で売却したとします。

数日後に株価が2500円に下がりました。そこで売った株式を買い戻し証券会社に返却します。

この取引で5万円の差益が得られたことになります。

短い期間であれば、証券会社に支払う借り賃、つまり金利は大した額ではありません。

現物取引では、下げ相場の時は上昇に転ずるのをじっと待つだけですが、信用取引の場合は信用売りで売却益を得ることができます。

◆制約がある反面、預け金以上の取引ができる

 

第3の違いは、信用買い(カラ買い)、信用売り(カラ売り)は、6か月以内に決済をしなければならないことです。

現物取引では1年でも10年でも、それ以上でも保有することができます。

 

この6か月の制約は、個人投資家にとってかなり厳しい足かせになることがあります。「安値で買ったと思っていた株が実は高値買いで、6か月経っても買値以下」なら赤字覚悟で損切しなければなりません。

 

第4の違いは、証券会社に預けた資金の最大3倍程度の運用ができることです。

株式取引が「ハイリスク、ハイリターン」と言われる理由の一つに、自己資金の3倍の取引ができることが指摘できます。

現金1000万円を預ければ、その3倍の3000万円の運用が可能になります。

たとえば現物取引で「1000万円で購入した株式が運よく上昇、数か月後に100万円の利益が得られた」という場合、信用取引ではその3倍の300万円の利益が得られます。

逆に株価が下がって現物株の売却損が100万円の場合、信用取引では300万円の売却損になります。

しかも現物株の場合は、株価が下がっても上昇するまで持ち続けることができるというメリットがあります。

信用取引の場合、6か月後も300万円の損失を抱えたままなら、損切り(購入価格以下で売却)しなくてはなりません。その段階で300万円の赤字になります。

信用取引には、以上のように現物取引にはない4つの特徴があります。

現物取引でも、必要に迫られ購入価格を大幅に下回ったまま換金(売却)すれば元本割れに陥ります。

元本が保証される銀行預金と比べれば明らかにリスクはあります。

しかし現物株を短期で売買する場合のリスクは限定されます。

株取引が「ハイリスク、ハイリターン」と言われるのは、もっぱら信用取引のことを指していると言ってよいでしょう。

◆予想が外れた時のリスクが大きい信用取引の怖さ

具体的に見てみましょう。

第1の特徴である「証券会社からお金や株式を借りる」という点。

これには、当然金利がかかります。借りている期間が長くなれば長くなるほど金利が嵩(かさ)んできます。

30万~40万円で購入した株式を6か月ぎりぎりまで保有していると、金利だけで5000円を軽く超してしまいます。

このリスクを避けるためには、売買期間をできるだけ短くしなければなりません。

信用取引の第2の特徴はカラ売りです。証券会社から借りた株式を市場で売り、期限内で買い戻し、返却する取引のどこにリスクがあるのでしょうか。

カラ売りのタイミングは、カラ売り対象に選んだ銘柄の株価がピークに近い状態に来た時です。

過去の株価の推移や業績などを総合的に判断して「これ以上の上昇は期待できない、これからは下落に向かうに違いない」と考えた時です。

ある銘柄の株価が3000円でピークに近いと判断し、証券会社から100株借りてカラ売りしたとします。

予想通り数日後に500円下落すれば、5万円の差益が得られます。1000円下落すれば10万円が得られます。

これはうまくいったケースです。予想が外れ、ピークと思った株価がピークではなく、さらに上昇を続けて3500円になれば5万円の損失、4000円まで上昇すれば10万円の損失になります。

◆損失が莫大になる恐れも

カラ売りが怖いのは、損失が無限大に膨らんでしまう可能性を秘めていることです。

現物取引で3000円の株式を100株購入した場合、最大の損失は株価がゼロになった場合です。この時の損失は投入金額の30万円が最大です。

これに対してカラ売りの場合は、株価が6000円まで上昇すれば損失は30万円になります。

不幸にしてさらに上昇し1万円に達すれば、損失は70万円に膨らみます。株価がさらに上昇し続ければ、損失は無限に増え続けます。

 

もちろん、以上のケースはあくまで理論上はこうなるという説明です。

実際にカラ売りした投資家は、予想に反して株価が上昇を続けるようなら、損切り覚悟で早めに株式を買い戻し、損失を最小にとどめるように動きます。

国内外を歴史的に振り返っても、株取引で大儲けをした人、大損をした人はほとんどカラ売りによるものなのです。

リーマン・ショック後のように株価が何週間か下げ続ける局面では、素人でもカラ売りで差益を上げることは可能です。

アメリカの住宅価格の下落に伴い、サブプライムローン(信用度の低い住宅ローン)を組み込んだ金融商品の信用性が疑われ暴落、その仕掛人的存在だった米大手証券会社、リーマン・ブラザーズが2008年9月15日に経営破綻(倒産)しました。それが引き金になり、同年9月以降、世界の株価は100年に1度あるかないかの大暴落となりました。これがリーマン・ショックです。

 

2008年の世界の主要株価はリーマン・ショックまでは比較的安定していましたが、ショック後の大暴落で、1年間の株価下落率は上海総合株価指数65.4%、日経平均株価42.1%、NYダウ平均株価33.8%、ロンドンFT100種平均株価指数31.3%と記録的な落ち込みを示しました。

NYダウや日経平均はショック後大幅下落を続け、翌年2009年2月頃になりようやく底を突きました。約5か月下げ続けたため、私も小額ですがカラ売りをして一定の利益を得ることができました。

リーマン・ショックのような歴史的暴落の場合は、カラ売りのリスクはかなり軽減されますが、平時の通常の市場でのカラ売りはやはりリスクが大きく、「石橋攻略」では初心者にカラ売りはお勧めしません。

◆石橋叩きのネット株投資術第13回

<文/三橋規宏>

みつはしただひろ●1940年生まれ。1964年慶応義塾大学経済学部卒、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学教授、同大学名誉教授、環境を考える経済人の会21事務局長等を歴任。主著は『新・日本経済入門』(日本経済新聞出版社)、『ゼミナール日本経済入門』(同)、『環境経済入門』(日経文庫)、『環境再生と日本経済』(岩波新書)、『サッチャリズム』(中央公論社)、『サステナビリティ経営』(講談社)など。