💥 今年6月下旬、JR池袋駅前のとあるメガバンク支店。さいたま市から同行を訪れた黒田弘さん(67歳・仮名)は、フロアの奥の個室に通された。
通常の窓口よりもゆったりと座れる椅子に腰かけて、一人の女性行員と対面する。
「資産運用アドバイザー」と名乗るその行員はパソコン上に映し出される黒田さんの預金データを確認すると、にこやかに微笑みながら、こう切り出した。
「今は金利が安いので定期預金の300万円、これで投資信託を購入されてはいかがでしょうか」
都心のど真ん中の支店に、特別待遇を意識させる個室。メガバンクの行員にこう誘われれば、「儲かるのだろう」と信じたくもなる。
マネー雑誌やネットでも「素人でも儲かる投信」の記事が山ほど載っている。黒田さんは勧められるがままに、定期預金の300万円で投信を購入したのだった。
だが、銀行に勧められた投信で損をしている人が続出しているとしたら、どうだろう。購入から数日後の新聞を見て、黒田さんは衝撃を受けた。
「6月29日、金融庁が明らかにしたデータで、国内29の銀行窓口で投信を買った客のうち、46%に上る人の運用損益がマイナスとなり、損をしていたことがわかったのです」(全国紙経済部記者)
投資信託で2人に1人が損をしていた――このニュースに、ある有名投資家は唖然としたという。
「リーマンショック以降、世界の株価は6割以上も上昇している。アメリカ株では2.5倍に上昇し、日本株も3倍以上の上昇を記録。
とりわけアベノミクスが始まって以降の世界景気は好調に推移し、ここで儲けなければ、どこで儲けるのだという相場が展開されてきました。
絶好の投資環境のなかで、なぜそこまで損をする人が続出するのでしょうか。でも、販売したのが銀行だと聞いて妙に納得してしまいましたね」
各種投資セミナーでは「銀行を信じるな」という言葉が格言となるほど、銀行窓口で販売される投信の運用成績は悪い。これはマーケットのプロのあいだでは常識だ。
だが、普通の素人はそんなことは知らないはず。金融規制改革を進める金融庁が調査したことで、事態が明るみに出た。
この調査は主要行9行と地銀20行を対象に実施された。いずれも銀行窓口で投信を購入した人の購入時点での評価額と、今年3月末時点での評価額を比べ、手数料などのコストも加味して、顧客の実質的な利益を算出した結果、46%が損をしていることがわかったのだ。
金融庁調査の結果によると、地方銀行20行も含めれば、損失を出している顧客が6割以上に上る銀行は10行もあり、7割以上の銀行も1行あった。
リターンに見合わないハイリスクの商品を売っている銀行もあり、金融庁の発表資料にもこんな辛辣な言葉が並んだ。
「預り残高上位20銘柄のうち設定後5年以上の投資信託について、コスト・リターンを検証したところ、両者に明瞭な関係が認められず、コストに見合ったリターンは必ずしも実現していない」
つまりリターンに見合わない、高い手数料を取っているということだ。
「今の銀行のおかれた環境が大きく影響している」というのは、HCアセットマネジメントの森本紀行氏である。
「法人融資は低迷したままです。また黒田(東彦)日銀総裁が実施したマイナス金利政策で、銀行は金利での利ザヤを稼げなくなっています。
そうした中で銀行の経営を支える主要な収益源は、投資信託や保険を販売することで得られる手数料となった。
だから銀行は運用成績の良好な投信よりも、手数料の高い投信を売ろうとするのです」
銀行で売られているのは販売手数料が2~3%かつ、運用管理手数料(信託報酬)が年率1.5%程度の高コスト投信がほとんどだ。
仮に1000万円を投資すると、のっけから30万円の販売手数料をとられ、しかも毎年15万円が手数料として消えていく。
初年度に4.55%の高利益が出たところで、それでようやくトントンの計算である。こんな資産運用は理にかなっているはずがない。
経済評論家の山崎元氏もこう指摘する。
「銀行で取り扱っている投信の99%は検討に値しません。世の中には販売手数料ゼロ、信託報酬も0.5%以下の投信が多くある。それなのに、銀行がそうした投信を勧めることはありません」